DV被害者の中絶についての相談の例です。(兵庫県内の性被害についての相談や支援機関の紹介を行うNPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごに寄せられる相談・回答をもとに、地域や年齢など、個人を特定しないよう一般化してご紹介しています)
被害者:女性 30代
相談者:本人
相談内容:DV被害を受けてシェルターに避難したが妊娠していることがわかった。夫は頼んでもコンドームをつけてくれることはなかった。一緒に避難した子どももまだ小さく、悩んだが中絶を決心した。
しかし受診した産婦人科では、中絶には夫の同意も必要だと言われ、途方に暮れている。
参考:男女共同参画局 DVとは 暴力の形態 | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)
強制性交やDVの場合は例外規定として配偶者の同意は不要
人工妊娠中絶術は母体保護法のもと指定医が行います。原則として配偶者の同意が必要ですが、強制性交やDVがある場合は例外として運用されます。もちろん婚姻していない場合は胎児の父親の同意は法律上必要とはされません。
参考:22.あまり教えてくれない人工妊娠中絶に関する同意について – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
この法律については「母体保護法」という名称ですが原則配偶者の同意が必要と定めている姿勢は、配偶者に胎児への権利を認め、産む女性自身のリプロダクテイブヘルス/ライツ(*下部コラム参照)が認められていないことが大きな問題であると多方面から論議が交わされています。
中絶(人工妊娠中絶)には期限がある
日本では中絶(人工妊娠中絶)できる期間は妊娠22週未満に限られています。
※妊娠週数は、妊娠したと思われる性交からの週数ではなく、最終月経(最後にあった生理)の初日を「妊娠0週0日」とカウントします。
[処置の内容]
- 妊娠12週まで
外科的処置(最近ではおもに吸引法)で胎児を人工的に体外に排出する処置を行います。日帰りでの処置のこともあります。
※世界的には妊娠初期(妊娠9週まで)であれば2種類の薬を併用する経口の人工妊娠中絶薬も普及しています。日本では2021年12月には厚生労働省へ承認申請がなされましたが、いまだ承認許可はおりていません。 - 妊娠12週以降~妊娠22週未満
妊娠12週以降は胎盤が完成し出血などの合併症も増えるために、入院可能な医療機関で子宮頸管を拡張した上で子宮収縮薬を投与し胎児を娩出します。
妊娠12週以降は死産届書の作成が必要です。
参考:第162回記者懇談会(R4.4.13)妊娠初期における安全な中絶治療法について – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
[費用の目安]
人工妊娠中絶術は保険がきかないため、医療機関によって費用は異なります。日帰りかどうか、何日入院するかで費用が変わりますが、おおむね10-30万円が必要となります。
ただし性犯罪の被害者は、警察に被害届を出すことで、医療機関での初診料、診断書料、人工妊娠中絶などの費用補助制度が利用できることがあります。
詳しくは、兵庫県警被害者支援室にご相談ください。兵庫県警察-被害者支援センター (hyogo.lg.jp)
DVであることを医療者に提示するには
このサイト「バーチャル・ワンストップ支援センター」に掲載している産婦人科は、すべて性暴力被害者に協力すると表明している医療機関です。しかし、産婦人科であっても、人工妊娠中絶を行っていないところもあるため、「支援機関一覧」から、「体のケア」で絞り込み、事前に電話やホームページで中絶を行っているか、料金や入院施設の有無も含め確認しておくとよいでしょう。
なお、医療機関では、あなたがDV被害者なのかどうか、同意書にサインをもらうためにDV加害者に接触することが危険なことなのか等を確認することができません。現在シェルターへ避難しているのであれば、DV被害者の支援機関はあなたがDV被害者であると説明してくれるでしょう。シェルターに避難していない場合は、本人の申し出だけでなく、少なくとも公的な機関(警察や配偶者暴力相談センターなど)に相談したという事実や記録が必要です。
入院が必要な場合は、加害者から身を守るため、ベットや部屋には実名を出さない方が安全です。また、性暴力やDV、妊娠に関する総合相談窓口でも、あなたの状況に対応できる医療機関の情報を持っていることもありますので、このサイトの「支援機関一覧」で「どうしたらいいか(どこに相談したらいいか)わからないなど」にチェックを入れて絞り込み、相談してみてください。
リプロダクテイブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利) リプロダクティブ・ヘルスとは、生殖の過程に単に病気や異常が存在しないだけでな く、生殖の過程が身体的、精神的および社会的に完全な状態(well-being)で遂行されることである (Fathalla, 1990)。従って、人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子どもを持つか持たないか、いつ持つか、何人持つかを決める自由を持つことを意味する。 国際人口開発会議(カイロ)(1994) では、人口問題が女性の健康の問題へと方向転換された。第4回世界女性会議(北京)では、「すべてのカップルと個人が有する人権の一部である」と明記された。