過去の性被害の相談の例です。(兵庫県内の性被害についての相談や支援機関の紹介を行うNPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごに寄せられる相談・回答をもとに、地域や年齢など、個人を特定しないよう一般化してご紹介しています)
被害者:40代女性
相談者:本人
相談内容:就学前より親戚からずっと性被害を受けてきた。中学生になり性教育を受けて何をされてきたのかが解り、ショックを受けた。最近大ケガをして親戚からされてきたことを鮮明に思い出し、トラウマ症状が出ている。どのくらいの過去までさかのぼって罪に問えるのか。このままで終わらせたくない。今からできることがあるのか相談したい。
それに怖くて恥ずかしくて嫌な体験はトラウマ(こころのケガ)になりやすく、人間はその記憶を心の奥底にしまい込んで心を守ろうとします。大人になって体験したトラウマにより、幼いころのトラウマ記憶が浮かび上ってくることもあります。
「このままでは終わらせたくない」という思いは、もしかしたら過去のトラウマを適切に整理する時が近づいてきた現れかもしれません。
性暴力被害に理解のある心理相談
トラウマに詳しい医療機関で治療を受けておられますか。もし、まだでしたら症状の軽減のためにも「支援機関一覧」から「心のケア」で絞り込み、心理的支援の可能な医療機関を探して、行ってみてください。
主治医と相談したうえで、性暴力に理解のある専門機関でカウンセリングをうけてみましょう。「このままでは終わらせたくない」という思いや「どうしたいか」を、カウンセラーと話し合ってみることなどはいかがでしょうか。「支援機関一覧」から「心のケア」で絞り込み、相談してみましょう。
現在の安心・安全の確保
加害者が親戚であればさまざまな行事ごとで出会うことがあるかもしれませんが、加害者を見ると様々な反応が出てくる可能性もありますので、距離をとることをおすすめします。
身近な家族、友人で支えてくれそうな人はいますか。ご自身のペースで、また無理のない範囲で探してみてはどうでしょうか。
また心穏やかに過ごせる時間や集中できる趣味など自分を癒すための時間を意識して確保しておくと良いと思います。
法律相談
被害を受けた方が選択することのできる法律的な手段はいくつかあります。
法的な面で、できることがないかを法律相談で相談してみましょう。
法的な手続きでは、何が起きたかをもとにどんな法的手段がとれるかを検討しますので、被害のことを思い出したり、話さないといけない場面があります。ご自身の心身のご負担や、手続きにかかる時間や費用など、いくつかを相談しながら、検討していくことになります。
なお、つらいことですが、いまの法制度では性暴力事件にも時効があるため、裁判で罪に問うたり、慰謝料を請求したりすることができないケースがあります。また、裁判官や加害者に認めさせるための証拠が問題になることもあります。これらの評価は、専門家でなければ判断できないことも多くあります。「支援機関一覧」から「法的支援」を絞り込み、「法律相談」ができるところにご相談ください。
①「現に監護者」による強制性交等罪と強制わいせつ罪 2017年、刑法の性犯罪規定が改正され、親など「現に監護者」による強制性交等罪と強制わいせつ罪が新設され、被害者が18歳未満であれば、暴行または脅迫を手段としなくても「その影響力があることに乗じて」なされた性的虐待を罰することができるようになっています(「監護者性交等罪」刑法179条)。しかし、法律上は「現に監護する者」と定められているだけで定義がなされておらず、対象となる範囲が明確ではありません。 なお、2017年の改正の際には、問題点が指摘されながら改正できなかった事項もあり、2022年12月現在、法制審議会で議論がなされています。 ②公訴時効 刑事罰を科す場合の時効は「公訴時効」といい、罪によって異なります。 例えば、刑法179条の監護者性交等罪の公訴時効は犯罪行為が終わった時から10年です。性暴力の被害者が被害について訴え出ることのできる期間を考えると公訴時効は短いのではないかという議論があり、法制審議会においても法律改正すべきかどうか議論されています。 ③消滅時効 損害賠償請求権が消滅してしまう時効を、消滅時効といいます。 民法724条の2では ア 被害者又はその代理人が損害および加害者を知った時から3年(生命または身体が害された場合は5年) イ 不法行為(性暴力)の時(性暴力が終わった時)から20年 とされています。 消滅時効は「援用(時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張すること)」されることで確定的に権利が消滅するものです。そのため、加害者が時効を援用すると被害者による損害賠償請求そのものが認められなくなる場合があります。 時効には、一定の事由があれば、新たに時効が進行することになったり(更新)、時効が完成しない(完成猶予)という制度があります。また、加害者側に過去の罪を償うという意思があれば、時効が完成しているかどうかにかかわらず、損害賠償が行われることもあります。そのため、自分で判断してしまわず、法律相談も検討してみてください。