養護教諭からの相談例です。(兵庫県内の性被害についての相談や支援機関の紹介を行うNPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごに寄せられる相談・回答をもとに、地域や年齢など、個人を特定しないよう一般化してご紹介しています)
被害者:小学生女児
相談者:養護教諭
相談内容:勤務している小学校の女児から「兄からイヤなことをされている」と打ち明けられた。「風呂場や布団の中でからだを触られている、やめてといってもやめてくれない」「お母さんには言わないでほしい」と言われ困っている。
子どもの間の性暴力は、年齢差や体格の違い等、加害者や被害者の間に発達や力の差があることがほとんどです。
年少のきょうだいは年長者からの性的な接触(性器に触れる、トイレをのぞくなど)をいやだと断れなかったり、意味がよくわからないまま応じていたりすることがあります。このような性的行為は遊びでなく性暴力です。(学校で性暴力被害がおこったら:「性暴力の定義」)
家庭内での性暴力を学校関係者に打ち明けることは珍しくない
これまでの調査*でも、性虐待に関して打ち明けた相手は学校関係者が多かったことが報告されています。きょうだいの間で性暴力があったと聞いた時、支援者はあまりのショックに受け入れ難く、信じたくないという気持ちが生じることもあります。まずは事実として受け止め、話しにくいことを勇気を持って相談してくれた子どもには「よく話してくれたね」と伝えてください。
*参考:(鈴木浩之ほか:性的虐待を受けた子どもから被害を聞き取るための課題ー「性的虐待調査」(2003-2005)「司法面接」のスキルを導入した実践(2006-)からー子どもの虐待とネグレクト2008:10(1)92-100)※全文閲覧は有料
きょうだいからの性暴力
性暴力救援センター・大阪SACHICOの報告(2020)によれば、家庭内での性暴力被害児161人のうち加害者は実父が50件超、続いて実兄・義兄が30件となっており、きょうだいからの性虐待は養父・義父・継父より多くなっています。
また、同報告によると家族からの性虐待は、家族以外からの性被害と比べると就学前や小学生など被害開始時期が早い傾向にあります。家族からの被害は長期にわたることが多く、周囲の早期の発見・介入が望まれます。
相手がきょうだいであるために、被害を受けた子どもにとって本来ならば安心できるはずの家庭が安全な場所ではなくなり、つらい思いをしています。平成24年度科学研究費助成事業「子どもの性被害と性加害への心理教育的アプローチ-性的発達の観点から-」(研究代表者 野坂祐子)によると、「恐怖や嫌悪感だけでなく、きょうだいだからこその親しみの感情もあるため、さまざまな気持ちの間で揺れ動き、混乱」している可能性をふまえ、適切なケアが受けられるよう迅速な行動が必要です。学校関係者が性被害を打ち明けられた場合は、抱え込まずにまず管理職に報告し、児童相談所など外部にサポートを求めましょう。
参照:リーフレットダウンロード | 子どもの性の健康研究会 (csh-lab.com)
性虐待の心身への影響
性暴力を受けた子どもには、さまざまなトラウマ反応が見られることがあります。言葉にすることが難しい子どもたちは、自身の変化を周囲にうまく伝えられず、身体(腹痛、頭痛など)や行動(赤ちゃん返り、自傷行為など)の症状としてSOSを出しています。また、性暴力を受けたことにより、頻繁に性器いじりをしたり性化行動とよばれる年齢不相応な性行動をとることもあります。
参考:性暴力被害のトラウマ反応の例(学校で性暴力被害がおこったら)
長期的には、思春期以降に不安定な性的関係をもったり、自己評価の低下など認知/情緒面への影響も指摘されています。子どもの頃の性暴力被害はそのこと自体がトラウマ体験となるだけでなく、性暴力被害が生じるような有害な環境にいるということがその後の健康問題に影響を与えるとする研究もあります。
参考:藤森和美・野坂祐子編 『子どもへの性暴力 その理解と支援』
子どもの権利と安全を守るためには、このようなトラウマによる影響を理解し、子どもが被害を開示してからの迅速な初期対応と問題を抱え込まない組織作りが重要です。
参考:学校で性暴力被害がおこった場合のタイムライン
「誰にも言わないで」「親には言わないで」と言われたら
「いじめや性暴力は、相手が誰であっても相談されたら必ず校長先生に報告することになっている」と学校のルールを話しましょう。そのうえで「お母さんに知られると何が心配なの?」「言ったらどうなりそう?」と子どもの不安を受け止めます。「あなたの話は子どもの安全を守る仕事の人に伝えなければならない」「あなたが心配していることはちゃんと一緒に伝える」ことをわかりやすく説明してください。
被害児童には、下記のページを印刷して見せてもよいでしょう。
バーチャル・ワンストップ支援センター ぷち
https://onestop-hyogo.com/petit/
家庭内性暴力の場合は、保護者の同意にかかわらず児童相談所への連絡が必要です。繰り返される被害については何度も聞くことで子どもの記憶が混乱してしまうこともあり、詳しい聴き取りは専門家に委ねましょう(下記コラム)。
児童相談所へ通告すると、子どもはどうなるの? 児童虐待を発見した場合は、疑いの段階であっても児童相談所への通告が義務づけられています。きょうだいからの性暴力は児童福祉法のうえでは保護者のネグレクトにあたります。保護者がネグレクトのつもりはなくても、不適切な養育環境といえます。 児童相談所への通告する場合は教職員個人ではなく、学校として行います。 児童相談所は、虐待内容により通告当日に子どもに面談し、自宅に帰すと再度被害にあう危険性が高いと判断された場合はそのまま一時保護となることもあります。 親戚宅へ預けるなど加害者・児との分離が可能であれば、被害児童が自宅へ帰ることもありますが、保護者が被害を認めない等、分離が困難な場合は養護施設へ入所となるケースもあります。 きょうだい間性暴力であっても、被害内容により刑事事件となる場合は代表者聴取(司法面接)と呼ばれる多機関による聴き取りが行われます。長期にわたる繰り返された性被害は証拠が本人の供述のみということが多く、訓練された専門家(検察官)が聴取し録音録画することで子どもが何度も聞かれる負担を減らします。