小学生男児の性被害の相談の例です。(兵庫県内の性被害についての相談や支援機関の紹介を行うNPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごに寄せられる相談・回答をもとに、地域や年齢など、個人を特定しないよう一般化してご紹介しています)
被害者:小学生男児
相談者:男児の母
相談内容:小学生の男児が、最近体調が悪いと塾を休むことが多くなったため、聞き出したところ「塾講師の家で裸にされ体中を舐められた」と告白された。ショックでそれ以上聞けていない。どうしたらいいか、わからない。
警察に被害届を出すと広まってしまいそうで怖い。夫が知ったら、塾、加害者だけでなく息子のことも責めそうで言えない。
相談しづらい、周囲の大人も受け止めきれないことが多い男児の性被害
性被害というと「若い女性が見知らぬ男からあう」というイメージが強く、男児の被害は見過ごされがちです。
社会のなかに「男性は性被害にあわない」「性被害にあっても傷つかない」「傷ついても支援などいらない」とする3重の強固な否認があることによって、男児や男性への性被害が見過ごされていくといわれています。
(参考:「男性の性被害者から相談を受ける 電話相談員のための指針 (2011 年2月・試行版)」(denwasoudan.pdf (fc2.com))玄野武人 著)
特に男児は小さいころから、「負けたらだめ、泣いたらだめ、やられたらやり返せ、弱音は吐くな」などの「男らしさ」を、家庭でも学校でも社会でも求められています。性を使った暴力は、被害者に恥の意識を持たせます。「男らしさ」の縛りと恥の意識により、相談することを難しくさせる傾向があります。
そのような状況のなか、被害者はこのような傷つきや被害を負っている可能性があります。
気持ち
- 相手の家に行ってしまったことを責める
- 抵抗できなかったことに罪悪感を持つ
- 自分が悪い
- 男ではなくなったのではないか、など性的なアイデンティティへの不安を持つ
- 恥ずかしい体になったと感じる
- 誰かに話したら仕返しされるかもしれない
- うわさになって広まったらどうしよう など
からだ
- 外傷、肛門裂傷、口腔への性器の挿入、ペニスや睾丸の損傷、尿道への異物挿入など
- 性感染症
- (強いストレスから)腹痛、下痢、頭痛
被害男児の周囲の人がとるべき対応
まずは信じて話を聴くことです。そして、不安なことやどうしたいかに耳を傾け、子どもの意思を尊重することが大切です。
子どもの場合、誰に、体のどこに、何をされたかを聞くだけで、まずは大丈夫です。(「学校で性暴力被害が起こったら」の「子どもからの聴き取り」をご参照ください)。
いちばん気を付けることは、いろんな人が子どもに何度も被害のことを聞かないことです。話すことで子どもがしんどくなったり、話す内容が変遷し証言の証拠能力への疑義が生じかねないからです。
上記の聞き取りの内容だけでも、体は大丈夫か、再加害は起きないかなど緊急対応が必要かどうかのアセスメントはできます。判断に迷う場合はワンストップ支援センターや病院、警察、こども家庭センターなどに相談してみましょう。
子どもから「誰にも言わないで」と言われたとき、できない約束はしないでください。誰に言ってほしくないのか、言ったらどうなると思うかなど話し合いながら、子どもを守るためのチームがあることを説明し、安心安全のためにできることを話し合いましょう。
性暴力というショックなことが起きた後、体、気持ち、考え方、行動に影響が出るのは自然なことです。おなかが痛くなる、眠れない、食べれない、やる気が出ない、イライラする、ボーっとしている、自分は価値のない人間と思う、勉強に集中できない、子ども返りするなどさまざまな反応が起きることもありますが、周囲の暖かで適切なかかわりにより、ゆっくりと回復していきます。
子どもだけでなく保護者にも同じような反応が起きることがありますので、保護者のケアも大切です。
男児の性被害、相談はどこに?
1.どうしたらいいかわからないとき
配偶者の行動が心配で被害のことを話せないときは、NPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごにご相談ください。
2.警察に相談したい
このサイトの「支援機関一覧」で「法的支援」にチェックを入れ、性犯罪110番♯8103か、または、最寄りの警察署にご相談ください。被害届を出す場合は、被害にあった場所の警察署に行くことになります。
被害届を出すことでうわさが広まることはほとんどの場合ありませんが、加害者が有名人や知識人、地位のある人の場合、報道が入る可能性があります。その際、警察等と被害者のプライバシーを守るために、報道の有無や、方法について要望・協議していくことになります。報道などに不安のある場合は被害者とその家族を守り支える制度ができていますので、「兵庫県警察 被害者支援室(サポートセンター)」または、このサイトの「支援機関一覧」から「法的支援」で絞り込んでにご相談ください。
3.体のことが心配
肛門や性器のケガをみてほしい、性感染症検査をしたい場合は、このサイトの「支援機関一覧」で「医療的支援」にチェックを入れ、一覧で「男児の相談可」としている院にご相談ください。
4.こころへの影響が心配
このサイトの「支援機関一覧」で「心のケア」にチェックを入れ、「男児の相談可」としているところ、または「どうしたらいいか(どこに相談したらいいかわからない)など」で絞り込み、最寄りの「こども家庭センター」(児童相談所)にご相談ください。
5.加害者や責任者に謝罪してほしい
このサイトの「支援機関一覧「法的支援」で絞り込み、法律相談ができるところでご相談ください。
子どものころに被害にあった男性は4人に1人 アメリカやカナダの調査研究を精査したリチャード・B・ガードナーは男児の性的被害の発生率を「約4人に1人の男性が性的虐待を受けた経験がある」と分析しています。 (『少年への性的虐待 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』2005年リチャード・B・ガードナー 作品社) 日本では本格的な調査は遅れていますが、1999年に発表された「子どもと家族の心と健康」調査報告書には「13歳までに女の子の6.4人に1人、男の子の17.5人に1人がなんらかの性被害にあっている」と示されています。 (「子どもと家族の心と健康」調査報告書 日本性科学情報センター企画・編集「子どもと家族の心と健康」調査委員会, 1999.12) またNHKが2021年に行った男性の性被害実態調査アンケートによると10代の被害が52.7%を占めていました。 参考:男性の性被害 292人実態調査アンケート結果【vol.131】 - NHK みんなでプラス 男児の被害は少なくないことと、女児だけが被害にあうわけではないことを理解しておきましょう。