性問題行動の要因を理解する
性問題行動は、ほとんどの場合、性的欲求のみで起こるわけではなく、相手を支配・抑圧したいという要素を含んでいます。子どもの場合、対人関係全般に課題があることも少なくありません。性問題行動が起こるには、以下の4つの要素が絡み合っていると言われています(Friedrich,W.N., 2003)。
- 性に関する誤った学習をしてしまう環境がある
(保護者がしばしば性的な話をする、子どもの前でAVビデオを見ている、家の中で平気で裸でいるなど) - 保護者の養育能力が低い
(保護者が精神疾患などで家事やしつけができないなど) - 暴力や威圧、不公平な関係を学習する環境がある
(虐待がある、保護者のDVを目撃している、保護者がきょうだいをえこひいきする、学校や習いごとなどでいじめられた経験など) - 衝動性のコントロールが弱い
(注意欠如多動症(ADHD)など)
性問題行動を予防することが重要
性問題行動は、習慣化しやすいため、早期に対応することが必要です。性問題行動が発覚した時も、初めてではないことが多く「たまたま、触ってしまった」ということは、ほとんどありません。教職員の役割としては、モニタリング(見守り)、日ごろの行動の把握、特にリスクの高い時間帯や場所は注意をしておくことが必要です。加えて、積極的にオープンなコミュニケーションを図り、児童生徒とのつながりを作ること、疑わしい言動があればためらわずにふみこんで話をすることが肝要です。
今後、性問題行動を起こさないためには、その子ども自身が今まで行った性問題行動のパターンを認識して、修正していくことが大事です。
1.性に関するルールと知識を教える
再発予防のためには加害児童生徒への性教育や心理教育が必要になります。この性教育は難しいように思えますが教職員にもできることは多く、まずは性に関する基本的な知識とルールを教えることが大切になります。場合によっては、ルールの1つとして法律があること(強制わいせつ罪、公然わいせつ罪など)を説明することが有効な場合もあります。こういった性教育を教職員が行うことは加害児童生徒が犯罪に至るのを防ぐ助けとなります。
低年齢の場合、この手引きの最初に述べた「プライベートゾーン」「いいタッチ、わるいタッチ」「境界線(バウンダリー)」「自分も他の人も大切にする」などについて学習することは大事です。プライベートゾーン(下着で隠れるところ)は自分だけの大切な場所であり、ルール(見ない、見せない、触らない、触らせないの4つ)があることを教えます。併せて、性問題行動はそのルールを破ったことになり、加えて殴る、けると同じで、わるいタッチであり、暴力の1つであることも伝えます。とくに「境界線(バウンダリー)」が守られているか、自分のものと人のものとの境界線がちゃんとあるか、人の領域に侵入していないかなどが、重要なポイントです。
保護者にも協力してもらい、家庭が性に対する誤った学習をしてしまう環境になっていないかどうかを見直すことも必要です。
なお、加害児童生徒自身が、過去にポルノや性行為を見せられていたり、体や性器に接触されたり挿入されたりするなどの性暴力を受けていることがあります。加害児童生徒が過去の被害を思い出したとき、その辛かったり、腹が立ったりした気持ちに焦点を当てることで、自分がした行為が相手を同様な気持ちにさせたことに気づくことができる場合もあります。
2.家庭での問題を保護者と一緒に考える
家庭での「境界線(バウンダリー)」の問題がある環境では、本人の居場所としての物理的空間の確保、時間や行動についての規則などを保護者と一緒に考えることが必要です。また、家庭内が不適切な養育環境と思われる場合は、本人が学校でも家でも頑張っているところを認め、極力ほめることが大切です。
3.衝動性をコントロールする
衝動性をコントロールするには、衝動となる刺激を少なくすることです。性問題行動を起こしやすい状況をつくらないようにします(例:人けの少ない時間、目につきにくい場所、特定の子が一人になるなどの状況)。例えば、休み時間も教職員の目につくところで遊んでもらったり、下校についても一緒に帰る友だちや時間、帰る道など指定します。その他の衝動性のコントロールは、ADHDの対応を参照してください(参考文献:『性の問題行動をもつ子どものためのワークブック― 発達障害・知的障害のある児童・青年の理解と支援』)。これらも保護者の協力が必要です。
4.性問題行動のパターンを修正する
どのようにして性問題行動が起きているか、そのパターンを子ども自身が認識することも必要です。性に対する誤った考え方を修正し(相手もそんなに嫌ではないだろうなど)、同じパターンに陥らないようにします。性問題行動のためのワークブックを活用し、定期的に復習するとよいでしょう。(参考文献:『 回復への道のり―ロードマップ.』)
性問題行動が悪質な場合、注意しても繰り返されている場合、かなり計画的に行われている場合、家庭が不適切な養育環境にある場合などは、こども家庭センター(児童相談所)、少年サポートセンター、医療専門機関などにつなげて一緒に対応を考える方が安全です。
保護者への心理教育
性問題行動を起こした児童生徒の保護者は、どうしても事態を過小評価し、偶発的な性行動ととらえがちです。今後さらに悪化する場合もあること、子どもとの情緒的なコミュニケーションと適切なモニタリング(見守り)が不可欠ということを伝えます。モニタリングには性刺激を管理することも含まれるため、子どもだけでなく保護者にも心理教育が必要です。
WEBテキスト版
ページ下部からダウンロードできるPDF版「危機管理の手引き」の内容をWebページでご覧いただけます。
性暴力の定義と学校での性暴力被害対応の概要
学校で性暴力被害がおこった場合のタイムライン(学校全体の取り組み)
学校での性暴力を未然に防止するための教育、いつから、どのように?
学校での性暴力を早期発見するためにー「いじめアンケート」のサンプル
被害児童生徒への対応(総論・各論)
被害児童生徒の心のケア
性暴力被害者のトラウマ反応の例
性問題行動を起こす児童生徒への対応
性暴力加害・被害について、子どもへ聞き取りをする際のポイントとケースシートの例
学校での性暴力に関するFAQ、こんな時どうしたら?
└被害児童生徒が被害届を出したくない/他の機関には相談したくないという時には?
└加害児童生徒が認めないときの対応
└学校が被害児童生徒や保護者から 加害児童生徒の出席停止を求められたら?
└インターネット上の被害を相談されたら?
警察・性暴力被害者支援センターができること
弁護士ができること
学校で性暴力被害があった時のマスコミ対応
学校で性暴力被害があった時の連携先一覧(兵庫県)
学校関係者が読んでおくべき性暴力関連の文献・書籍/参考サイト
PDF版ダウンロード
「学校で性暴力被害がおこったら 被害・加害児童生徒が同じ学校に在籍している場合の危機対応手引き」
発行:2020年6月
発行元
国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)による「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域で採択されたプロジェクト「トラウマへの気づきを高める“人―地域―社会”によるケアシステムの構築」の成果物です。教育関係者、医師(小児科、精神科、産婦人科)、福祉、警察、弁護士、NPOなど多領域の関係者で作成しました。
調査研究者:兵庫県立尼崎総合医療センター 田口奈緒
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