事実確認と生徒指導は区別する
学校で性暴力被害に対応するのは、子どもの不自然な様子(年齢に見合わない強い性的関心や性的行動など)があって本人に話を聴いた時に開示があった、友だちから教職員に情報が入った、という偶発的な場合と、本人が教職員に「聴いてほしい」と積極的に話をしてきた、という意図的な場合の2つがあります。当事者に話を聴く際には以下の点に十分注意して、まず事実確認をする必要があります。聴き取った内容は巻末のケースシートを利用するなどの方法で、確実に記録をしておくことが「何度も話を聴かれる」という二次被害を防ぎます。
以下の点は、被害児童生徒だけでなく、加害児童生徒から聴き取りを行う際にもポイントとなります。
環境:他の人には聞かれないように、静かな落ち着いた場所で聴く
話が中断しないように、例えば電話などでの邪魔が入らないようにします。偶発的な状況として話を切り出す時には、「最近元気がないみたいだけど、何かあったら教えて」「ここに怪我をしているね。どういうことがあったのか、教えて」というのが、よくある導入の仕方です。
態度:感情的な対応にならない
子どもは最初から全てを開示することはありません。事実の一部だけを話して相手の様子を見て、この人にそれ以上の話をしても大丈夫かどうかを感じ取ろうとしています。性の話は聴く方にとっても負担が大きいのですが、大人が怒りや動揺を見せたり、「それはひどい」とか「どうしてそんなことをしたんだ」などと加害児童生徒や被害児童生徒本人を非難したりすると、子どもはそれ以上話ができなくなってしまいます。
スキル:聴きすぎない・誘導しない・作らせない
1.無理に聴きすぎない
重大なことだと思うと「いつ」「どこで」を確認したくなりますが、最初の段階では「誰が」「身体のどの部分に」「何をした」のかを聴き取ることができたら、それだけで十分です。特に小学校低学年や知的障がいのある児童生徒の場合は、「時」の概念がまだ十分に育っていないため、被害に遭った日を間違えて伝えてしまって、事実誤認につながることがあるため、注意が必要です。子どもが自ら積極的に詳しい話をしている場合には、それを遮る必要はありませんが、こちらからあれこれ質問することは避けましょう。しかしながら被害内容によっては緊急避妊など医療機関を受診する必要性があるかどうか判断するために「いつ」について尋ねなくてはならないこともあります。
話が一段落ついたら、話をしたくなった気持ちを十分に受けとめた上で、「話をしてくれてありがとう。とても大事な話なので、どうするのが一番いいか、信頼のできる人たちと相談をするから、その後でもう一度話を聴かせてくれる?」と後につなぐようにします。
2.誘導や圧力にならないように気をつける
「〇〇さんから聞いた」は誘導につながります。また「なぜ」「どうして」(Why)という言葉は、子どもに「非難されている」という圧力をかけてしまいますので、「どういうことで」(How)に言い換えてください。(「どうしてそこに行ったの?」ではなく、「どういうことがあって、そこに行くことになったの?」など)
3.開示をほめすぎない
「そんなつらいことをよく話してくれた」という気持ちになるのは当然ですが、それを伝えるのは面接の最後にしましょう。開示直後にそれを伝えると子どもは、ほめられた、もっとほめてもらおうと思って、「話を作ってしまう」こともあるからです。
聞き取りのあとのポイント
1.確認などのために他の人がもう一度話を聴くことは避ける
被害体験を忘れたいと思っている子どもにとって、何度も話を聴かれてそれを思い出させられることはトラウマ体験をより深めることになります。また子どもの話の内容や記憶そのものが変化してしまうリスクもあります。性暴力被害は、医学的な診察では異常所見が見つからず、子どもの話が唯一の証拠になることも少なくありません。大人の側の不用意な対応によって、大切な証拠の価値を失ってしまうことは避けなければなりません。
2. わからないことは言わない・できない約束はしない
「加害児童生徒は転校することになると思う」などと言いたくなる気持ちはわかりますが、加害児童生徒が必ずしも処分の対象にならない場合もあり、そうすると子どもは「先生もうそをついた。私を守ってくれなかった」と信頼を失うことになります。
また子どもが「他の人には言わないで」と言ったら、「誰に言われるのが心配なの?」「言ったらどうなってしまうと思うの?」と尋ねてください。「そういうことが心配だったのね」と子どもの気持ちをちゃんと受け止めてから、「でもあなたの話は子どもの安全を守る仕事の人に伝えなければならない」「あなたが心配していることもちゃんと一緒に伝える」ことをわかりやすく説明してください。「言わないからお話して」というのは、子どもにうそをついて裏切ることになります。
3. 次に相談できる機会を提供する
性暴力被害を疑って話を聴こうとしても、子どもはまだ心の準備ができていないかもしれません。その時には開示がなかったとしても、話をする時間をとってくれたことにねぎらいの言葉をかけ、「困ったことがあったら誰か相談できる人はいる?」「話をしたくなったらまた聴かせてね」と、次の開示の機会もあることを伝えておきましょう。
4.一人で抱え込まない
教職員が一人で対応しようとせずに校内のチームで十分に検討してください。「もう少し様子をみてから」などという結論になり校内での対応に納得できないことがあるかもしれません。そういう時には性暴力被害者支援センターや医療機関など、校外の第3者機関に相談してください。それが子どもの将来を守ることにつながる場合もあります。
学校での性暴力被害があった時の聞き取りに使うケースシートの例
学校での性暴力被害があった時に、聴き取るべきポイントがもれおちなく記入できるシートです。このページの注意事項に配慮しながらヒアリングを進めてください。
WEBテキスト版
ページ下部からダウンロードできるPDF版「危機管理の手引き」の内容をWebページでご覧いただけます。
性暴力の定義と学校での性暴力被害対応の概要
学校で性暴力被害がおこった場合のタイムライン(学校全体の取り組み)
学校での性暴力を未然に防止するための教育、いつから、どのように?
学校での性暴力を早期発見するためにー「いじめアンケート」のサンプル
被害児童生徒への対応(総論・各論)
被害児童生徒の心のケア
性暴力被害者のトラウマ反応の例
性問題行動を起こす児童生徒への対応
性暴力加害・被害について、子どもへ聞き取りをする際のポイントとケースシートの例
学校での性暴力に関するFAQ、こんな時どうしたら?
└被害児童生徒が被害届を出したくない/他の機関には相談したくないという時には?
└加害児童生徒が認めないときの対応
└学校が被害児童生徒や保護者から 加害児童生徒の出席停止を求められたら?
└インターネット上の被害を相談されたら?
警察・性暴力被害者支援センターができること
弁護士ができること
学校で性暴力被害があった時のマスコミ対応
学校で性暴力被害があった時の連携先一覧(兵庫県)
学校関係者が読んでおくべき性暴力関連の文献・書籍/参考サイト
PDF版ダウンロード
「学校で性暴力被害がおこったら 被害・加害児童生徒が同じ学校に在籍している場合の危機対応手引き」
発行:2020年6月
発行元
国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)による「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域で採択されたプロジェクト「トラウマへの気づきを高める“人―地域―社会”によるケアシステムの構築」の成果物です。教育関係者、医師(小児科、精神科、産婦人科)、福祉、警察、弁護士、NPOなど多領域の関係者で作成しました。
調査研究者:兵庫県立尼崎総合医療センター 田口奈緒
性暴力被害者支援のための活動サポートをお願いします
このウェブサイトを運営している「性暴力被害者支援センター・ひょうご」は、性暴力の被害者支援や予防的活動を行っています。上記の「危機管理の手引き」の配布や「バーチャル・ワンストップ支援センターひょうご」の運営にかかる費用等に充てさせていただきたく、お一人でも多くにご支援いただけると幸いです。
郵便振替の方は、一口千円より下記にお願いいたします。
振込先 郵便振替 00950-4-274165「性暴力被害者支援センター・ひょうご」